『本庄くんがカースタントの成功を積むことで、あの子の心が少しでも癒やされてくれたら良いんだけどね』
『…龍二さんの事故、見ていたんですか?』
『ううん、あの子は学校だったから見てないわ。でもきっと、最期のお別れの時を覚えているんだと思う。私もね、あの時はかなり動揺してさくらを心配させちゃったから…』
苦い顔をした社長だが、それは当然だと思えた。
愛する夫がいきなり事故で逝ってしまったら、子供がいようと取り乱しもするだろう。
『それでも、私はスタントマンとしての観月龍二を誇りに思うし、彼の妻であることが幸せで、後悔なんかひとつもないの。さくらにも、きっといつかわかるときが来るんだろうけど、こればっかりは自分で乗り越えてもらわないとね』
強いひとだと思った。
愛する人を亡くしてなお、笑って前を向き、彼の後進をサポートする会社を続けている。
尊敬の眼差しで彼女を見ると、『気長に待ってやってね』と笑った。
社長には俺の気持ちなんてとっくにバレていたのだと、苦笑したのを覚えている。