「あんたは出来ないの?」

そう聞いてきた早瀬の口調は、ぶっきらぼうというよりは挑発の色が見えた。

彼がさくらを気に入っているのを見抜けたのは、同じ女に惚れた男の勘とでも言うのだろうか。

本来ならそんな見え見えの挑発に乗ってやる義理もないが、俺自身が焦れていることもあり、売り言葉を買うように「出来ますよ」と言い放った。

もちろん無謀な返事というわけではない。

普段から殺陣の稽古だけじゃなく、バイクスタントやカーアクションの訓練も受けていたし、実際にやれる自信もあった。

今までも小さい仕事ながらもカースタントの依頼がなかったわけじゃない。

それを引き受けてこなかったのは、さくらの気持ちを待っていたかったからだ。

幼い頃に父をバイクスタントの事故で亡くしているさくらにとって、トラウマになってしまっていることは容易に想像できたし、彼女の母である社長からも聞いていた。