「……はい」
「よし」

私がゆっくりと首を縦に振って返事をすると、彼は満足げに頷いた。

本庄さんの顔を見たらなぜか泣いてしまいそうになって、私は必死に堪えようと顔中の筋肉に力を入れる。

そんなしかめっ面な私にゆっくりと美麗な顔が近付き、唇の上でちゅっと音がなる。

「行ってくる」



―――――え? 今の、なに……?


何が起きたのかわからず呆然としている私に、いつもの極上の笑顔を向けて、彼はディレクターズチェアの方へ歩いていく。

「……いってらっ、しゃい………?」

口元を覆って呟いた蚊の鳴くような私の声は、本庄さんの所業を見ていた女性スタッフ達の大きな黄色い悲鳴にかき消されてしまった。