「さくら」
「本庄さん…!」

声がした方を振り返ると、映画の主人公の衣装である真っ黒なロングコートの下にチェストプロテクターをつけて、手には大きなヘルメットとゴーグルを持った本庄さんの姿。

真っ直ぐに私を見つめる瞳に、唇を噛みしめた。

その顔を見れば、言葉なんてなくても本気なのが痛いほど伝わってくる。

仕事に情熱を持ち、真剣に取り組んでいるのをずっと近くで見てきた。

父に憧れ、うちの仕事とは別でプロのスタントライダーに教えを請い、モトクロスというオートバイ競技を習得したり、サーキット場で車の運転技術を磨いたり、たくさんの訓練を受けてきたのも知っている。

カースタントに必要な体力も資質も強靭な精神力も、すべて彼には備わっている。

それなのに、本庄さんはこれまでカースタントは一切引き受けていなかった。

その彼の意図を、私は考えないようにしてきた。

もう悲しい思いはしたくない。

そんな自分の感情だけで、本庄さんが何を思っているのか慮ることを放棄して、長い間何もかも見て見ぬ振りを続けてきた。

彼だけでなく、スーツアクターのマネジメントという仕事を続けていくのなら、いい加減向き合わなくてはならない時がきたのかもしれない。

そうわかってはいても、どうしても手放しで送り出せない。

どれだけ危険な仕事なのかを、幼い頃から父を見てきた私は身を以て知っているから……。