スーツアクターだった父は、特撮ドラマの〈中の人〉からアクション映画のスタントまで幅広く活躍していた。
特に映画のスタントはどんな危険なシーンも引き受け派手な画を撮らせてくれると、有名監督の間でも重宝され、多くの依頼が来た。
実際、父の仕事は素晴らしかったと思う。
CGでは決して出ない緊迫した迫真の演技が映画をより良いものにしていた。
だけど、父は死んだ。
バイクスタントでの事故だった。
亡くなった後に知ったことだが、父は危険なシーンに挑む時には必ず私達家族に手紙を残していた。
【何があっても自己責任。良い作品を作るため、命をかけて仕事をするのはスタントマンだけじゃなく皆同じ。だから俺がどうなったとしても、作品を必ず世に送り出してほしい】
【俺は怪我してもいいから良い画が撮りたいって思ってるわけじゃない。誰も怪我しないで良い画を撮るために、俺たちプロがいるんだ】
こういった内容の手紙が、父の部屋からいくつも見つかった。
そのプロ意識とも仕事馬鹿とも言える熱い激情を知った人達は、父を崇高な精神の持ち主と褒め称え、今や『伝説のスタントマン』として語り継がれている。