すぐに次の本番に向けてガヤガヤと人が動き出す中、彼女たちの視線を独り占めしていた男性は三上監督とひと言ふた言言葉を交わすと、黒いマスクを人差し指で顎下に下ろしながら何かを探すように周囲を見回す。
その様子をじっと見ていた私に気付き、どことなくサングラスの奥で柔らかい表情になった彼が、真っ黒なロングコートの裾をふわりとはためかせながら颯爽とこちらへ歩いてきた。
その様子すら周りの女性達の目を引いて、私は居たたまれない気持ちになりつつ、少しだけ優越感を感じてしまう。
別に私と彼は特別な関係ではないのに、自惚れもいいところだ。
「どうだった? さくら」
甘く響く低音ボイスが私の名を紡ぐ。
声まで良いなんて反則だと思う。
そんな感情を押し隠し、私はにこりと笑ってみせた。
「今日もバッチリです。最後のバックスピンキック、最高でした!」
軸足がブレず、真っ直ぐ相手の喉元に届く長い脚。
手数の多い長回しのアクションシーンながらも、ひとつひとつの型の美しさが損なわれないのはさすがだった。