未練がないといえば嘘になる。

本当は今だってあの楽しかった舞台に立ちたい。

だけど、もしまた同じようなことが起きて、子供たちの楽しみを奪ってしまうようなことになってしまったらと考えると、キャスト部に戻りたいだなんて言い出せなかった。

当時、現場のみんなも、その場にいなかった本庄さんも『さくらのせいじゃない』と言ってくれたけど、私の決意は変わらなかった。

そして大学を卒業し、社員として『MIZUKI』に入社した私は運営部に配属となり今に至る。

キャストとして同じ舞台に立つことはなくなったけど、本庄さんはヒーローショーよりも外部の仕事が増えてきたので、私は彼のマネジメント専属になりつつあった。

仕事ではあるものの2人で過ごす時間が増え、私の心に反して距離感は縮まっていく。

私が社会人になって初めてお酒を飲みに連れて行ってくれたのも本庄さんだ。

『いつもマネジメントしてくれてる礼だ。酒の飲み方も覚えといたほうがいいしな』

てっきり居酒屋でも行くのかと思ってたのに、連れて行ってくれたのは『Karin』というオシャレなダイニングバー。