いっそ本庄さんに恋人ができれば…。
私だってもうこんな風に悩んだり自惚れたりしなくていいのに。
とんでもなくモテるはずなのに『MIZUKI』に入社してからずっと女性の影が一切見えない。
だから私をからかう本庄さんの瞳に甘い熱情が込められているように感じて期待してしまう。
いちいち彼の言動にドキドキしてしまうのは、恋人を作らない彼のせいだ。
そんな風に本庄さんに責任転嫁していると、彼が私に向かって手を伸ばしてきた。
「さくら、俺は」
その手が私の頭に触れる前に、「ほらぁ、マネージャーさんもそう言ってるので行きましょうよぉ!」と、嬉しそうに弾む声に遮られる。
今がきっと踏ん切りをつけるとき。
ぎゅっと1度強くまばたきをして、迷いを消すように笑顔を作った。
「明日はオフで、明後日が8時半入りなので。よろしくお願いします」
私は何か言いたげにこちらを睨む本庄さんの視線も、自分の胸の痛みも気付かないふりをして、小さく一礼するとその場から逃げるように立ち去った。