「あぁ、すみません。今日はちょっと」
聞こえてきた声に、おや?と内心首をひねる。
どことなくいつもよりも声が素っ気なく冷淡に響いた気がした。
その僅かな違和感が確信に変わったのは、本庄さんの顔にいつもの爽やかな笑顔がなかったから。
疑問に思い見上げた私に視線を向けた本庄さんは、自身の腕に絡みついていた椿さんの手をさりげなく外して距離を取りながら「こいつと約束があるので」と、なぜか私を巻き込んで彼女からの誘いを断った。
「え……っ」
困る。とっても困る。
ただでさえ一昨日邪魔するなと釘を刺されているのに、ここで私を理由にするなんて。
しかも全くの事実無根。本庄さんと約束なんてしていないし、していたとしてもここで私の名前を出すのは間違っていると思う。
案の定、椿さんが私を般若のような顔で睨んでいる。
まだ撮影は始まったばかり。共演者とのトラブルは避けたい。
本庄さんだってそう思ってたからこそ、今までの誘いは無難な断り文句で躱していたんじゃなかったの?