考えておいてと言われても、そもそも私はアイドルにも女優にも興味がないし、紹介されたって困ってしまうのだけど。

はぁ、とため息をつくと、「チッ」と大きな舌打ちが聞こえる。

「いい子で見てろって言わなかったか?」
「……はい?」
「現場で口説かれてんじゃねぇよ」

眉間にシワを寄せ、億劫そうにサングラスを外す。

額に掛かったサラサラの前髪をくしゃっと手で掻き上げながら睨む本庄さんに、私はすぐに反論した。

「別に口説かれてなんていません」
「じゃあ考えとけって言われてた『さっきの件』って何のことだ」
「それは……」

早瀬さんが勝手に私を自分のとこの事務所に紹介するとかなんとか言い出したんです。

そう説明しようとしたところに、この廃ビルにそぐわぬ甘ったるく甲高い声が響いた。

「湊さんっ! お疲れ様ですー」
「……お疲れ様です。今日は椿さんのシーンはなかったんじゃ?」
「はい、私のシーンはないけど来ちゃいましたぁ。湊さんのアクションシーン見たくって」