思い出してもしょうがないことが脳裏に浮かび、私はキュッと唇を噛み締める。
早瀬さんは俯いて何も話さなくなった私の肩を抱き寄せると「事務所のお偉いさんに紹介しようか?」と耳元で囁いてきた。
「……はい?」
「マネージャーしてるなんてもったいないじゃん。俺の口利きならうちの事務所入ってアイドルとしてでも女優としてでも売り出してもらえるよ。可愛い顔して意外と毒舌で塩対応っていうのも売れそうじゃん?」
早瀬さんは何を勘違いしているのか、そう言って私を連れて強引に現場に背を向けて歩みを進めようとする。
「それに、握手もサインもねだってこない女の子って新鮮で、俺自身もさくらちゃんに興味あるし」
「いや、あの私は」
「俺が自分であのシーンを演じてたら、君はその目を俺に向けてくれる?」
別に芸能人になりたいわけではないし、申し訳ないけど早瀬さんのサインも特に欲していない。
それに皆の目を惹く本庄さんのアクションシーンは彼の才能と努力に裏打ちされた特別なもので、誰彼真似できるようなものではない。
そう思って誤解を解くため肩に回された腕を掴もうとしたところに、後ろから早瀬さんではない誰かにぐいっと手首を引っ張られた。