悔しい気持ちもわからないではないけど、本庄さんのアクションを『あのくらい動ける』と評されて、ついムッとしてしまった。
「へぇ、そうなんですね。それはぜひ見たかったです」
視線を早瀬さんから本庄さんに戻し、感情を乗せずに言うと、頭ひとつ分高い位置から「ハハッ」と笑う声がした。
「さくらちゃん、顔に似合わず気が強いよね」
「……観月でお願いします」
話すようになったここ一ヶ月の間、何度も繰り返したやり取り。
なぜか人気俳優で主演であるはずの早瀬さんは、こうしてことあるごとに私に絡んでくる。
「いいじゃん。観月さくらちゃんでしょ? 名字だと会社名で呼んでるみたいだし」
早瀬さんがうちの会社を知っていることに驚いて見上げると、彼は私の考えを読んだように「あいつがどこの事務所か気になって調べた」と肩を竦めた。
あいつとはもちろん本庄さんのことだろう。
あれだけ整ったルックスだ。もしかしたらライバルになり得ると警戒しているのかもしれない。
だからこそ、マネージャーである私にこうして声をかけてきているのかと納得した。