その後数日間、小墾田宮(おはりだのみや)にて体の疲れを癒したのち、いよいよ炊屋姫(かしきやひめ)との対面を迎えることとなった。

客人らは小墾田宮の朝庭へと案内される。
そして朝庭では、炊屋姫が彼らの到着を待っていた。

裴世清(はいせいせい)は炊屋姫の前に出ると、隋から預かってきた信物を庭上に置いた。

彼は国書を捧げ持ち、両度再拝する。
そして趣旨をその場で言上して、起立した。
※両度再拝:二拝を重ねて行なう



「皇帝から倭国の王に御挨拶申し上げる。

この度使人の蘇因高(そいんこう)らが、隋にお越しになり、あなたの気持を聞かせていただいた。

自身は天の命をつつしみ受けて、この国を治め、そしてその徳をもって広めて生きたいと願っている。

そして人々をいつくしみ、国が平和で人々との思いを通わせていた。

そんな中、誠意をつくしてわざわざはるばると朝貢してきたことを知って、その美しい真心を、私はとてもうれしく思う。

それゆえ、鴻臚寺(こうろじ)掌客(しょうきゃく)である裴世清らを遣わして自分の気持を伝えるとともに、信物をお送りする」

※鴻臚寺:隋に置かれた役所(外国使節の接待、朝貢など)
※掌客:外国使臣の接待を担当する役人


その後裴世清の読み上げた国書は大門の前に置かれた。

そして大伴咋(おおとものくい)と呼ばれる者が大王の炊屋姫に奏上する。


それを聞いた炊屋姫も、裴世清を通し隋の皇帝の言葉をしっかりと受けとめる。

またその場には厩戸皇子も同席しており、この度の遣隋使の派遣は、彼の思惑でおこなわれたものであった。

そして厩戸皇子もまた、裴世清の発する言葉を1つ1つを深く受け止めていた。

(どうやら今回の隋への派遣は、無事に成功したようだ。
他国との関係を築き上げる上で、例え相手がどんな大国であったにせよ、あくまでも倭国は対等な関係を続けなければならない)

厩戸皇子は、今後の倭国と他国の関係が、平和でより良きものになるよう、心のうちで祈りを捧げていた。


そしてその後、この度の客人たちを歓迎するため、朝廷で饗応が開かれることとなった。
※饗応:客人を招いての接待