バケツが大きく揺れて倒れてしまいそうに鳴り、その寸前で手が伸びてきてバケツを支えた。


バケツを支えた手を視線で追いかけていくと。そこにはクラスメートの飯田くんがいた。


右手に雑巾を持っていて、窓拭きをしていたみたいだ。


「ごめん、飯田くん」


「いや、大丈夫だよ。こぼれなくてよかった」


飯田くんはホッとしたほうに微笑んで答えた。


飯田くんはクラスの中でもおとなしい生徒で、休憩時間にはいつも好きな本を読んでいた。


「飯田くん、今日は掃除当番なんだね」


せっかく立ち止まったのだからと思い、少し会話を広げてみた。


すると飯田くんは一瞬暗い表情を浮かべて、すぐに笑顔を浮かべる。


一瞬見せた暗い顔は見間違いじゃないかと思い、海斗は瞬きをした。


「うん。そうなんだ。深谷くん、気を付けて帰ってね」


「あぁ。ありがとう。じゃあ、また明日」


海斗はほんの少しの違和感を残して、その場を後にしたのだった。