ボソボソ・・・と低い声が遠くに聞こえる
開けたいのに開かない目蓋をどうにか持ち上げてみれば
記憶に擦りもしない部屋が目に飛び込んできた
「・・・どこ」
フカフカの感触に驚いて上半身を起こしてみる
私が四人は寝られそうな大きなベッドに寝ていたようで
ベッド以外なにもない部屋で
こうなる前の記憶を手繰り寄せていた
「・・・っ」
夢現のような認めたくない生々しい映像が蘇ってきて
途端に胸が苦しくなる
さよならを告げたはずなのに
こんなに苦しいのは
まだ洸哉を好きな気持ちが残る馬鹿な自分で
苦しむ胸に手を当てて溢れそうになる涙を堪える為に唇を噛んだ
ガチャ
「あら、起きたのね」
開いた扉の向こう側に
記憶の最後に残った顔が現れた
「・・・ここ、は?」
「ここはアタシん家よ」
そう言って部屋の中に入ったマスターは
ベッドに腰掛けるとそっと頭を撫でてくれた
「私・・・」
どうやって此処まで来たのだろう
「アンタ、彼処で倒れちゃってさ
も〜焦ったんだからね?ほんと
アタシに見つけて貰ったから良かったものの
あのままならどうなってたか知らないんだからっ
それにっ涙も鼻水も擦りつけて泣くもんだから着替えなきゃなんないし
今頃アタシ、街のいい笑い者よ?
ま、その所為で冷やかしが増えて商売繁盛なら儲けものだけどさ
あら、ちょっと、アンタなに泣きそうになってんのよ!」
マスターの軽快なお喋りに耳を傾けながら
いつもなら笑えるはずなのに
込み上げてくるのは真逆ばかりで
ただ、撫でてくれる手が温かいことに涙が落ちた