裸だった洸哉が追いかけてくるはずもないのに


少しでもあの場所から離れたくて
走り続けた結果


「・・・」


見えてきた景色に言葉を失った


・・・なに、此処

勢いに任せて走った所為で迷い込んだのは

まだ早い時間なのに通りには客引きが立ち

キラキラとネオンが光る妖艶な裏通りだった


立ち止まってはいけない場所だと本能が告げているのに

体力の限界か・・・
杭を打たれたみたいに足は一歩も動いてくれそうもない


そればかりか


「・・・っ」


今更ながらに涙が溢れてきて


眩い光の中で呆然と立ち尽くすしかなかった













「ちょ、な、莉子っ!何してんのよっ」





歓楽街の奥で大泣きしている私に大きな影が掛かった


肩を揺られて視線を上げると


涙で歪む景色の中に
見知った顔が見えた


「・・・ゔぅ、マスターぁ」


「アンタ、緊急事態だけど訂正させて貰うわよ?
アタシはママ!何度言ったら分かるのこのオタンコ茄子っ!」


いつも通りの返しに
なんだかホッとして


身体中から力が抜けた




「ちょ、ちょ、莉子っっ」




焦ったマスターの声を遠くに聞きながら


フワリと心地良い浮遊感




張り詰めていた糸が切れた音が聞こえたのを最後に



見えていた景色が消えた