卒業式。
いつもなら眠くなっていそうな校長先生の話や来賓の話を、今日は眠くならずに聞いていた。
聞いていた、というよりも考え事をしていたから聞き流していた、の方が正しい。
あいつは本当に来るのだろうか。
そればかり頭に浮かんで、いつの間にか卒業式は終わっていた。
教室や廊下は、友達との写真撮影や、卒アルの書きあいっこで混み合っている。
私も、何人かの友達に卒アルのコメントを書いてもらった。
でも、その何人かのコメントは、書き込みスペースの4分の1も埋まってなくて、ちょっとだけ笑った。
その友達と別れて、私は1人、ローファーを履いて校門に向かう。
校門には、卒業生の両親であろう人々が群がっている。
私の母は仕事で来れないと言っていたけど、思わず姿を探してしまう。
本当は来て欲しかった。でも言えなかった。
私のこの性格が、本当に嫌いだ。
ふと、校門を出てすぐのところに、見かけない制服を着た生徒が立っていることに気づいた。
もしかして、卒業生の誰かの友達なのだろうか。
近づくにつれ、その人は男子なんだと分かる。
知らないはずの男子。
でも、どこか見覚えがある。
そう思った瞬間、その男子と目があって、その男子がこっちに近づいてきた。
私も、引き寄せられるように歩いていく。
その男子は、とうとう私の目の前に来た。
「お待たせ。」
もしかして、夢でも見ているのだろうか。
頬を思いっきり摘んだら、ピリピリと痛んだ。
「夢、じゃ、ない?」
「夢じゃねぇよ。」
「ほんと、に?」
「あぁ。てか、勝手に夢にすんな。」
心臓がバクバクと鳴り続けている。
本当に来るなんて思ってなかった。
もしかしたら、私を騙すつもりで、あの手紙にはなんの意味もないんだって思ってた。
それでも、こいつは来てくれた。
わざわざ、私のところまで来てくれた。
「私、信じてもいいの?」
「いいよ。」
「本当に?」
「本当だよ。」
あぁ、もったいない。3年ぶりのあいつの顔なのに、また涙で歪んで見れなくなっている。
私は存在を確かめるように、そいつに抱きついた。
「いるんだ。」
「いるよ。てか、ここ恥ずいから、場所変えようか。」
顔を上げて周りを見渡すと、多くの人に見られていたことに気づく。
私、なにをしてっっ!
「はやく、どっか、連れてって。」
恥ずかしすぎて動けない。SOSでそいつの袖を引っ張ると、
「りょーかい。」
そいつは私をお姫様抱っこすると、駆け出した。
「え、ちょっ、これはっっ!」
「大丈夫。安全運転でいくから。」
「そういう問題じゃないから!!」
こいつはそのまま走り続けて、近くの公園に着くと私を降ろした。
そいつは結構息が上がっている。
「ばか。私をお姫様抱っこなんかしてこの距離を走るから。」
「俺だって、この3年間鍛えたんだ。これぐらいできる。」
にしても、お姫様抱っこして走るのは、このぐらいの域じゃないと思う。
「無理しちゃだめだよ。」
「いーんだよ、俺はお前のためなら無理くらいするんだ。ってとこ、見せたかっただけだから。」