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「あー腹減ったー」

「.......言っとくけど食べたらすぐ戻るからな」


教室を出てから外のどこで食べようかという話になって、最終的に1番人通りが少ない体育館裏の階段で食べることになった。

教室より人が多い中庭に連れていかれそうになった時は全力で腕を引っ張って抵抗。

渋る柚槻に紙パックのジュースを奢ることで妥協して貰えた。


.......いや、なんで私がこいつの機嫌とってるんだ。


「琳ちゃんていっつも弁当?」

「そうだけど.......何で」

「いや、美味そうだなーって思って。自分で作ってんの?」

「.......うん」


すると、切れ長の目を大きくさせて「すげぇー」と言葉を漏らした柚槻。

少し意外な反応で驚いていたけど、気づくとお弁当の卵焼きを盗み食いしようとしていてすぐに気持ちが引っ込んだ。


「うわ、琳ちゃんガード固。俺なんかいっつも購買なのになー」

「.......お弁当作ってもらえないの?お母さんとか」

「んー、うち父親いねーから母さん夜遅くまで仕事でさー。迷惑かけんの嫌なんだよね」

「そう.......なんだ、」


いない.......知らなかった。

そりゃあ当たり前か。今まで聞いてきた柚槻の話なんて、悪いものしか聞いてこなかったんだから。

「迷惑かけたくない」とか、一番無縁そうな言葉なのに.......意外としっかりしてるんだ。


少し、自分の中の「柚槻陽」のかたちが変わったような気がした。