「.......、.......何」

「.......なんでそんな警戒してんの」

「お前がこんなとこ連れてくるからだろ」

「別に手ぇ出したりしねーよ」


そう言って近くにあった椅子に座る柚槻空。

しばらく黙って様子を伺った後、自分も鍵のしまったドアにもたれて、ひとつため息をこぼした。


「.......もっかい聞くけど、お前女?男?」

「.............女じゃ悪いかよ」

「んや別に。なんで男のフリしてんの?」

「言いたくない」

「お前を命の危機から助けた恩人だぞ」

「それ今関係ないだろ」

「.......教えてくんなきゃ女だってことバラす」


.......卑怯だ。

手が汚すぎる。


「.............中3の時、塾の帰りに襲われそうになった」

「あー、なるほど。だから男装してんだ」

「.......ほんとに誰にも言わない?秘密にしてくれる?」

「なんでそんな信用ねぇわけ」


不服そうな顔をする柚槻に「性格悪そうだから」と返すと、彼は少し驚いて小さく笑った。


「あ、てかさー」

「?」


「お前結構胸でけーし柔らかい」

「.......は?」

「いいじゃん。やっぱ胸でかいのってさー、女子としては得なんじゃねーの」


両手をわきわきと動かしながら真顔で言われて、思わず殴りそうになる衝動を必死に抑えた。

女の子に興味が無いことで有名だったけど、やっぱりそれなりにあるのはあるらしい。


さっきの発言で柚槻の信用はマイナスになったけど。


「.......こんな髪短くて、男っぽい口調の女の子が胸でかくても意味ないでしょ」

「?んな事ないだろ」

「.......え、?」




「伊澄、それでも十分かわいーし美人だと思うけど。」

「.......な、」





あぁ.......やっぱり、この人は性格が悪い。





「なっ.......な、〜っ.......っ、うるさい馬鹿!!」




初めて、この姿でかっこいい以外の言葉を言われた瞬間だった。