「いやーまじで助かった、ありがとな柚槻ー」

「っ、柚槻……?」

「痛ってー……空から降ってくるとかお姫様かよ」


くるんと癖のついた茶髪に、猫のようなつり目と両耳のピアス。

間違いない、学校で一番の不良の柚槻陽(ゆつきはる)だ。


授業にはほとんど出ず、いつもどこかでふらふらしていて先生も手に負えない問題児。

喧嘩もしょっちゅうで、生徒指導に怒られてたり顔に絆創膏が貼ってあったりは何度か見たことがある。


一緒にいるだけで目立つような、私が一番関わっちゃいけない人。


「?……ていうか、なんか柔らかくね」

「は?なん_____、」


盲点、と言えば盲点。


階段から落ちたこととか、助けてくれたのがこの柚槻陽だったとか、イレギュラーなことが重なりすぎて。

猫のような目をさらに細くさせた柚槻の目線をたどると、その先には私を支えようと出したらしい彼の左手が、ちょうど左胸にあたっていた。



しかも、なんかちょっと揉まれた。



「……なに、お前女なの?」

「っ、〜っ違う!!!!」



真っ赤に染まる顔を腕で隠すようにして、カバンも持たずに全速力で逃げた。


最悪だ、最悪最悪最っ悪。

今までずっと大きめの制服を着てたからバレなかったけど、胸を触られたらごまかしようがない。

言いふらされる?相手はあの柚槻陽だ。

何をされるか分からない。またあの時みたいになるのかも。


とりあえず最上階まで上がって、一番奥の空き教室に駆け込んだ。

焦りと動悸、それと久しぶりに全力で走ったせいか過呼吸になって、シャツにじんわりと汗が滲む。


「はぁっ……はぁっ……どうしよう……」


幸い荷物を持っていた男の子には聞こえてなかったみたいだから、今のところ気づいたのは柚槻だけだろう。

それでもそのまま放っておくわけにはいかないから、どうにかして口封じしないと……仮に頼んだとして、あの人が素直に黙っていてくれるとは到底思えない。

息が整ってきたところで、とりあえず今日は早く帰ろうと教室を出た。

カバンに入ってる定期がないと電車に乗れないので、みんながいなくなっていることを信じてゆっくりと下に降りる。


「……あ、あった!よかっ」

___グイッ

「!?まっ……〜っ、おい!待てって!!」


私の叫びもフル無視で、左腕を掴み無理矢理引っ張っていく。

目の前のものに気を取られて後ろの人影に気づかないなんて、あの某人気アニメみたいな展開だ。


私を引っ張っているのは、紛れもない柚槻陽だった。


しばらく廊下を進むと、学級委員が鍵を閉め忘れたらしい2年の教室の中に入って、


何故か、彼は鍵を閉めた。