白いワンピースを身にまとい、少し乱れたハーフアップの髪が印象的なその子は、おそらく高校生くらいだろう。入り口に近い私と守さんの顔をまじまじと見た後、カウンターにいる薫さんと百合子さんに目をやった。その様子を見る限り、この子の瞳には生きている人間しか映っていない。今にも泣きだしそうな表情で私たち四人(・・)に必死に何かを訴えているように見える。

 「柿峰(かきみね)すずさん?」

 持っていたファイルの中にある資料を見ながら守さんが彼女に尋ねると、その子は消えそうな声で返事をした。その瞬間、彼女の姿が滲んでいき、まるで分身が現れるかのように彼女とは違う別の女性が現れた。

 その人は四十代くらいで、ぱっちりとした目元からこれ以上ないほどの悲しみが湧き出ていた。柿峰すずという女の子から現れたこの人に、私たち四人は誰一人として反応しなかった。理由は単純なことだ。この女性がもう既に亡くなっていることが分かったから。

 「あの……話を聞いてもらえますか?」

 「うん、聞くよ。君のお母さんの話だよね?このお姉さんが聞いてくれる」

 小さくか細い声の女の子の言葉を聞いて、守さんは私の背中を軽く押しながら優しく彼女に答えた。それを合図に今度はカウンターから百合子さんと一緒に薫さんが出てきて、

 「僕たちなんかよりも歳の近い同性の人の方が柿峰さんも話やすいかなと思ってね」

 と、私の横に並んだ。すると彼は耳元で囁くように「よろしくね」と耳打ちをし、百合子さんも私の方を見るなりよろしくと目だけで伝えてきた。

 状況処理が追いつかない私の横で碧斗君の声が口を動かす。

 「この子もそうだけど、このお母さん、苦しそうだね」

 彼のその言葉で私は初めて彼女の横にいる女性が母親であることに気づいた。ぱっちりとしたその瞳は娘にも受け継がれてるようで、俯きがちなその子が顔をあげると、二人が親子であることが一目瞭然となった。

 「柿峰すずです。高校二年生です。あの……お姉さん、私の話を聞いてください。お願いします」

 彼女は両手で私の手を握ると、声を殺しながら涙を流した。その手から伝わる彼女の悲しみで、心臓(こころ)が締め付けられるような苦しさを覚える。いや、思い出す。

 私はこの子に何をしてあげられるのだろう。この子の話をただ聞いてあげるだけで何か変わるのだろうか。分からないけど、それでも私にできることがあるのならやりたい。

 そうだ、さっきの感覚。思い出す……私はなぜかこの子の今抱えている悲しみを知っている気がした。

 私の身体が、そして心臓(こころ)が、この子の持つ悲しみに似た悲しみを覚えている。いつの記憶なのかは分からない。それでも今、全身で思い出していた。

 大切な人を失った悲しみを、私は知っている。