岡野くんが私と同じ学校に転校してきたのは、小5の春。以来、昨年度まで、私たちはずっと同じクラスだった。それが今年、ついに彼とクラスが別れた。


多少の感慨はあったけど、でも私には既に付き合ってる人がいるし


「とうとうバラバラになったねぇ。」


廊下でたまたま会って、そう言って笑い合ったくらいだった。


少しずつ、元通りになりつつあるかに見える学校生活。でも真夏になろうかという季節に、マスクを手離せない現実が、その歩みを妨げている。


そんなある日のことだった。


学校帰りの公園のベンチで、私は恋人の諒太さんに抱きしめられていた。180cmを超える長身の諒太さんが、女子の中でも小柄な私に縋りついて、ワンワン泣いていた。


この日、高野連が春に続いて、夏の甲子園大会の中止を発表していた。ということは、その予選会である各都道府県大会も当然中止。結果として、3年生である諒太さんは、最後の戦いの場を奪われてしまったのだ。


野球だけではない。私たちチアのJAPAN CUPは延期で済んだけど、高校スポ-ツ部の集大成であるインタ-ハイも中止。多くの3年生たちが同様の衝撃に見舞われていた。


「紗月、俺が何した、何したって言うんだよ。」


そう言って泣きじゃくる彼の頭を、私は慰めるように撫でてあげることしか出来なかった。


その週末、私は諒太さんの自宅を訪れていた。彼と付き合い出した途端に、こんな騒動になって、私たちの付き合いは必ずしも順調とは言えなったが、それでもお互いの家を行き来したり、少しずつ一緒に出掛けるようにもなって、私は彼の初対面の時の強引さに似ない優しいところに、惹かれ始めていた。


部活が再開して、デート時間もなかなかとれないようにはなって来たが、彼は唐突に部活が終了してしまったし、私の部活もまだ、通常飛行に戻り切ってはいなかった。


「お邪魔します。」


玄関に入った私を、諒太さんは笑顔で迎えてくれた。だけど、いつもなら一緒に出迎えてくれる彼のご家族の顔が見えない。


「ご家族は?」


尋ねた私に


「ああ、今日はみんな出掛けてるんだ。」


という彼の答えに、私の身体は一瞬固まる。


「上がれよ。」


しかし、何事もないように、彼は私に言う。正直躊躇したけど、今更引き返すことも出来ず、私は中に入った。