「紗月、柴山はまぁイケメンの部類に入るとは思うけどさ。私はあくまでクラスメイトとしてアイツを見てるだけだけど、結構俺様気質で我が儘なところがあるよ。だいたいみんなが見てる前で告るなんて、デリカシ-がなさすぎるよ。紗月の気持ちなんか、何にも考えてないじゃない。私はオススメしないなぁ。」


帰り道、琴乃先輩のアドバイスに、周囲もうんうんと頷いていたけど


「ありがとうございます。でも確かにビックリしましたけど、私がお断りしたら、恥をかくのも覚悟されて、告って下さったわけですから。真剣なんだと思います。だから、私も少し考えてみたいと思います。」


私はこう答えた。


そして私がお返事したのは3日後だった。


「私、柴山さんのことをまだ何も知りません。ですから、まずはお互いを知ることから始める、それでよかったら、是非よろしくお願いします。」


誰もいない空き教室、柴山さんに来てもらった私は、そう言って頭を下げた。


「ありがとう、とっても嬉しいよ。これからよろしくな、紗月。」


嬉しそうな表情を浮かべて、柴山さんは答える。「紗月」と呼ばれたことが、恥ずかしかったけど、でも嫌ではなかった。


柴山さんのことを考えていた時、岡野くんの顔が何度も浮かんだ。なんで岡野くんの顔が・・・なんて思わない。その理由は私が一番よくわかっている。私は岡野くんに、淡い思いを抱いている。でも岡野くんにとって私は、やたら縁のあるクラスメイトでしかないのは明らかだった。その思いを伝える勇気もなく、状況にもならず、時間だけが過ぎて行っていた。


そんな時に受けた思いもかけない告白。琴乃先輩のアドバイスはわかっていたけど、好きだと言ってもらったことが、単純に嬉しかった。その柴山さんの気持ちに向き合ってみよう、私はそう決心したのだ。今にして思うと、まさに恋に恋してたんだろうな・・・。


そんなこんなで順調に進んでいたはずの私の、私たちの高校生活に危機が迫っていた。年が明けてから、海外で騒ぎになっていた未知の新型ウィルスがついに、私たちの身近に迫って来たからだ。


結果として、私たちの学校生活どころか、通常の日常生活すら脅かすことになるこのウィルスの恐ろしさを、私たちはまだ何も知らず、対岸の火事とばかりに思い、なんの切迫感も危機感も抱いていなかった。