「卒業生入場。」


司会の声が聞こえて来て、「威風堂々」をBGMに私たち卒業生は、順に体育館に入って行く。私は一番最後のG組、入場すると参列の保護者や教職員たちが拍手で迎えてくれた。


だけど、中学の卒業式も入場曲は同じだったけど、あの時は吹奏楽部の生演奏だった。席について、司会の開会宣言のあとの国家斉唱も校歌斉唱も流れてくるCDの曲を、私たちは起立して、ただ聞いているだけ。


続いて、卒業証書の授与が始まった。A組から順番に各クラスの担任が名前を呼び上げ、それに答えて、私たちは起立していく。本当なら1人1人壇上に上がって、校長先生から証書を手渡してもらえるはずなのに・・・今日はクラス代表が上がって、全員の証書をまとめてもらって、それでおしまい。


私たちの担任は、私たちの名前を呼び終えると


「以上、第78期卒業生277名。」


と締めた。一緒に入学した仲間のうち、5名の子が、なんらかの事情で、私たちと共に今日を迎えられなかったことになる。


私たちの3年進級と同時に赴任した校長は、式辞の冒頭でこう言った。


「こうして私がみなさんの前でお話をするのは、今日が最初で最後になります。」


朝礼や各種集会での校長の言葉は、校内放送を通じて聞くのが、いつの間にか当たり前になっていた。


送辞を読んでくれた現生徒会長は、今日たった1人の在校生の式典出席者。私たちの代表が答辞を読んで・・・全てが終わった。


「卒業生、退場。」


司会の声に促され、また拍手に送られて、私たちは「キセキ」をBGMに会場を後にする。


教室に戻った私たち。やがて担任が、私たちの卒業証書を抱えて入って来るまで、教室には、なんとも言えない空気が漂っていた。


中学の卒業式では、式典の途中で泣き出す子が何人もいた。なのに今、そんな子は1人もいない。お約束のように涙を流せばいいというものではないけど、そんな雰囲気にはほど遠かった。


やっと、1人1人に証書が手渡されて、担任が最後のメッセ-ジを語り出す。私たちの高校生活はもう間もなく終わりを告げようとしている。


担任の言葉を聞きながら、私は周りを見渡した。みんなマスクをしている。みんなの顔がちゃんと見えなくなって、それにいつの間にか、なんの違和感もなくなってしまって・・・。


今日のあの淡々とした卒業式はなに?感染症対策で仕方ないのはわかってる。でも私たちには修学旅行も、合唱コンク-ルもなかった。他にも飛んでしまった行事がいくつあった?


担任の話が終わると、待ちかねたように私は立ち上がっていた。