「特別なきっかけは正直ないかな。クラス一緒だった時も、喋ったことなんて数えるくらいしかなかったし、まして別になったら、顔だって滅多に合わせなくなって・・・。でも、たまに会って、話をしてるとなんか心安らぐし、彼の声を聞くと、とにかく癒されるんだよ。」


「なるほど、確かに岡野っちはイケボかも。でもあくまで喋り方と声だけね。」


「美奈・・・。」


「ごめんごめん。でもさ、彼には悪いんだけど、紗月の彼氏としては役不足だと思うんだけどな。」


あくまで彼をディスって来る美奈。だけど


「まぁそれでも、紗月が岡野っちがいいって言うなら、止める理由はないかな。さっきも言ったように、彼は悪い人じゃないから。」


そんなことを言って、私を見る。


「うん・・・だけど今は、部活の有終の美を飾ることを優先に考えたいかな。それに正直な話、今の自分の彼に対する思いがどういうものなのか、自分でもまだはっきりしないから。」


と答えると


「なるほど。それならそれでいいんじゃない?岡野っちを積極的に、紗月にお勧めする理由も私にはないもんね。」


美奈はそう言って笑った。


部活はJapan cupが東京オリンピック開催に伴う会場不足に感染症第5波が重なり、なんと年末まで延期となり、それはさすがにもう出られない。例年のJapan cupの時期に開催されることになった関東選手権大会が、私たちの最後の舞台となった。


3日間に渡って行われた大会、これでチアから離れる仲間もいる、私自身も大学に進んで続けるかは決めかねていた。だから高校生としてだけではなく、自分のチアリーダ-としての集大成になる可能性すらある。当たり前だけど、私たちは全力を尽くした。


結果は決勝まで進出、総合6位の成績を収めることが出来た。


(もう悔いは・・・ない。)


やり切った、その充実感が全身に漲っていた。競技を終えた私は、マスク姿ではあったけど、誰彼ともなくハグをして、お互いの健闘をたたえ合った。


「さぁ、後は頼んだよ。」


去年、琴乃さんから贈られた言葉を、確かに後輩たちに伝えて、私の3年間の競技生活は終わりを告げた。