なんてことを考えて、1人ドキドキしている私に対して、岡野くんの方はあくまでいつもと変わらぬ自然体。


穏やかな話し方、暖かな笑顔。それが今、私ひとりに向けられていることが嬉しくて、心地よくて・・・。


なんて舞い上がっているのは私だけ。彼は誰にでも優しくて、そしていつも穏やか。そういう人なんだ・・・。


歩き始めてから15分程、私の家が近付いて来た。岡野くんの家はここから更に15分程。


「今日はありがとう。お陰で・・・心強かったよ。」


本当は「一緒に帰れて嬉しかった」って言いたかったのに、その言葉を口にするのが恥ずかしくて、そして躊躇われて・・・。


「いやぁ、お世辞でもそう言ってもらえると、ありがたい。」


笑顔で答えてくれた岡野くんは


「じゃ、また明日。」


また明日か・・・去年までと違って、私たちは同じクラスじゃない。教室のあるフロアも違っているから、実はあんまり会わない。でも


「うん、また明日。」


また明日、会えることを信じて、私は答える。そんな私にニコッと笑顔を残して、彼は歩き出す。その後ろ姿を見送る私は


(また一緒に帰ろうよって誘ったら、彼は頷いてくれたかな・・・?)


そんな思いが浮かぶ。彼をなんとなく意識していることは自覚してたけど、思っている以上に、彼の存在が自分の中で大きくなっていることに気が付いてしまい、私は正直驚いていた。


でも一緒に帰る機会なんて、その後も訪れず、滅多に顔も合わさない、合わせても軽い挨拶を交わすくらい、そんな日々が続いた。


そして迎えたJAPAN CUP。3日間に渡って行われた大会で、私たちの学校はなんとエントリ-した3部門全てで決勝に進出。上位に食い込んだ。


「みんなありがとう。」


「急遽レギュラ-が抜けた穴を、2年生が懸命に埋めてくれたお陰だよ。本当にありがとう。」


「辞めた仲間達にも、いい報告が出来るよ。」


歓喜し、涙する先輩たちの姿に、私たちも喜び、そしてもらい泣き。


「紗月~よくやった、ありがとう。来年も頼んだよ。」


号泣しながらハグしてくれた琴乃さんに


「はい。」


と返事をしながら


(岡野くん、ありがとう。君がくれた「大丈夫」という言葉のお陰で、私は落ち着いて力を発揮できたよ。)


心の中で、彼に感謝のメッセ-ジを送った。