必死に抵抗した。でも男子の力には敵わなくて、完全に組み伏せられて


「紗月、俺はいい加減な気持ちじゃない。信じてくれ。」


その言葉と共に、ついに彼は私の服のボタンに手を掛けた。でも、その言葉は私の心に何も響きはしない。


(岡野くん、お願い、助けて・・・。)


思わず、心の中で必死に呼びかけても、そんな言葉が彼に伝わる由もない。


悔しいけど、もうダメ・・・。私は覚悟を決めたように目をつぶり、顔を彼から背ける。せめてもの最後の抵抗、すると・・・。


ガチャリ、玄関のドアが開く音と共に


「ただいま~。」


のどかな声が聞こえて来て、ハッとしたように、彼の力が緩んだ。その瞬間、私はとっさに彼を払いのけると、脱兎のごとく、部屋を飛び出した。


服を整えながら、階段を降り、玄関へ。


「紗月、ちゃん・・・?」


唖然とする彼のお母さんに


「お邪魔しました!」


と挨拶もそこそこに、私は彼の家から脱出した。


(助かった・・・。)


必死に駆けながら、そう思った途端、涙が溢れ出して来た。


それから諒太さんからは、電話もLINEも山のように、入って来たけど、全て無視し、ブロックした。


週が明けてからも、諒太さんは付きまとって来たが、事の顛末を知った琴乃さんが激怒して


「あんた、自分が紗月になにをしようとしたか、わかってんの?これ以上、紗月を傷付けたり、苦しめたりするなら、こっちにも覚悟がある。あんた、この学校に居られなくなるよ。大学にだって行けなくなる、それでもいいの?」


と厳しい口調で立ちはだかってくれた。その言葉の前に、諒太さんは肩を落とすと


「わかった、紗月すまなかった。でも俺は、紗月が本当に好きだったんだ。これだけは信じてくれ。」


そう言って、頭を下げると、悄然と私の前から去って行った。


「諒太さん・・・。」


その寂しそうな後ろ姿を見て、私が少し心が痛んでいると


「つまんない同情心は大怪我のもとだよ、紗月。」


たしなめるような琴乃さんの言葉に、ハッと彼女の顔を見る。


「これに懲りて、あんたももう少し、男を見る目、養うんだね。」


そう言って笑う琴乃さんに


「はい。」


私は頷いた。


少し経ってから、私は諒太さんのことを、結局本当には好きではなかったのかもしれない、そう思い至った。だとしたら、酷いことをしたのは私の方だったのかも・・・そんなほろ苦い思いを残して、私の人生最初の恋愛は終わった。