彼の部屋に入り、しばらくは2人で話をしていた。彼の部屋に入るには初めてじゃない、実は彼との初デ-トがここだった。


なんて、はしたない、大胆なと思われちゃうかもしれないけど、当時は本当に外でデートなんて、出来る雰囲気じゃなかったし、いつもご家族が居て、私を暖かく出迎えて下さったのだ。


休日である今日も、当然どなたかはいらっしゃると思い込んでたから、確認もしなかったのが、失敗だった。


夕方になり、段々暗くなってきて、でもどなたも帰って来る様子もなくて、さすがにまずいなと思い始めた私は


「じゃ諒太さん、私そろそろ失礼・・・。」


するね、という言葉を紡ぐ前に、私は抱き寄せられ、そしてそのままベッドに押し倒された。


「諒太さん!」


何をするのと言わんばかりに呼び掛けると


「紗月、好きなんだよ。」


彼が私の身体を押さえつけ、顔を寄せて言って来る。


「好きなんだよ、紗月。」


繰り返すようにそう言って、彼が私の服に手を掛けようとするから


「ダメ、嫌!」


私は叫ぶように言うと、懸命にその手を抑える。


「何でだよ?紗月は俺のこと、好きじゃねぇのかよ?」


迫って来る彼。


「好きだよ。好きだけど、今は嫌!」


「なんで?」


「だって、私たち、まだキスも・・・。」


その言葉は、彼の唇にあっというまに遮られてしまう。こんな形で大切なファーストキスを・・・。どのくらい唇を奪われていたのだろう、せいぜい5秒、10秒・・・?でも私にはものすごい長い時間に感じた。ようやく彼が離れると


「お願い、もう止めて。」


懇願するように訴える。


「紗月、辛いんだよ。目標がなくなって、毎日どうしたらいいか本当にわかんねぇんだよ。だから、だからさ・・・俺を慰めてくれよ、救ってくれよ!」


それに対して、諒太さんも私に訴えるように言う。


聞いたことがある。この騒動が始まると、先の見えない日々に対する不安を紛らわすように安易に身体を許し、あるいは強引に奪われてしまい、心身ともに傷付いた女子が何人もいるって。でもまさか自分がそんな当事者になるなんて・・・。