「佳奈さん、どうしてここにいるのですっ」

 呪縛を振り払って、私は佳奈さんを問いただそうとする。
 龍二のメイドに化けていた佳奈さん。
 最初に会ったときは担任教師。
 でも、今目の前にいるのは……。

「お迎えに参りましたのよ、神楽耶様。やはり、この地球では、何をしても無駄のようなので」
「待ってください、神楽耶は僕の大切な人。それにアナタは誰なのですかっ。どうして、関係者以外の人がこの場所に……」

 遅れて動いた龍二が、声を荒らげて佳奈さんに詰め寄っていた。その声はいつもとは違い、力強く、そして頼もしいように私は感じた。

「まったく、誰に向かって言ってるのです。人間(ゲス)ごときが、この私に話しかけるなど、身のほどを弁えるがいい」

 龍二に向けられた冷たい言葉に、私の怒りは最大となる。
 しかし、私よりも先に怒りを顕にした人物が……。

「僕は初対面の人に優しくしてるんですけど、アナタにはなれそうにもありません。人間をクズと呼び捨てるような人には特にです」
「ボウヤ、冗談は顔だけにしてくれないかしら。私の名はカナ、誇り高き月の民よ。そして、魔性国女王の側近でもあるのですから」

 ダメ、これ以上、龍二には言わないで。このままじゃ、私が魔性国の姫だってバレちゃうじゃない。

 私が口を出そうとするも、二人の言い争いは激しさを増していく。重たい空気が場を支配し、私は完全に萎縮してしまった。

「月の民? 魔性国? 何をわけの分からないことを言ってるんです。怪しい宗教団体なんて、ここにはお呼びではないんですよっ」
「竹採神社、あの情報を流したのは誰だと思ってるのです?」
「情報を流す……? だってあれは……」
「神楽耶様が、本来のお姿を戻せばと思い、わざわざ分かりやすいよう、流して差し上げたというのに」