「僕が来たのは、ほんの少し前さハニー。ところで、慌ててたけど何かあったのかい? 僕でよければ力になるよ」
「ちょうどよかったわ、龍二。電話をかけて欲しい人がいるのよ。私のスマホはバッテリーが切れてしまったのよ」
「マイハニーの頼みなら喜んで引き受けるよ。誰にかければいいんだい〜?」
「えっと、龍二にかけて欲しいんだけど、お願いできるかしら?」
「ハニー、龍二って僕以外のかい?」
「アナタ以外の龍二なんて知らないわよっ! いいから早く……」

 待って、私は龍二と話すために、スマホを充電しようとしたのよね。そこへ、龍二が来たから、彼のスマホで龍二に……。って、電話をかける意味がないじゃないのっ。

 恥ずかしさのあまり、私の顔は真っ赤に染まってしまう。視線をゆっくり逸らすと、龍二から返事があったのだ。

「ハニー、それはさすがの僕でも無理な話しさ。いや、スマホを二台持ってくれば、ハニーの願いを叶えられるわけだね」

 真剣な顔の龍二を私は必死に止めた。
 この部屋から出さないように。彼の腕に絡みついて……。

「じ、冗談よ、冗談っ。もぅ、龍二ったら〜。それでね、龍二に聞きたいことがあるの」
「僕にかい? ハニーのためなら、なんでも答えるよ」
「そ、そう。あのね、佳奈さんっていうメイドなんですけど、今どこにいるのかしら?」
「佳奈? それは誰だい? 僕の家に佳奈というメイドなんていないさ」

 一瞬、龍二が嘘を言っているのかと思った。でも、真剣な彼の目は嘘なんか言ってはいない。私は頭の中が真っ白となる。

「そ、そうなの……」
「ハニー、誰かと勘違いしてるんじゃないかな。僕が元気になるおまじないをしてあげる」
「おまじない……?」
「明日、僕とデートしようじゃないか」

 まっすぐな瞳で龍二は私を見つめていた。
 彼の独特なオーラが、私の中から『佳奈』という存在を消し去る。言葉を失い、私は小さく頷くことしかできなかった。