入学式も無事終わり、私は自分の教室へと戻っていく。体育館にいくまで、着いてから、終わってからと、くだらない男たちから告白されたのは言うまでもない。

 やっと終わったというのに、クラスの男子どもの視線といったら……醜すぎるわよ。まるで飢えたブタのように見えるわ。

「入学式、お疲れ様ですぅ〜。この一年間、担任をする宮原佳奈といいます。よろしくねぇ〜」

 田舎だからなのか、教師の言葉に重みがない。まるで友だち感覚に思える。でも、肩が凝らなくていいと私はポジティブに考えた。

 ──ガラガラ。

「はぁ、はぁ、神城龍二、なんとか間に合いましたっ!」
「あのぉ〜、残念ながら……完全に遅刻なんですよぉ」
「甘いですよ、先生。この教室の時計は……時差で狂っているのです」

 ドヤ顔を決める龍二に私は目が点となった。いや、驚いたのはそこではない。運命のように彼と同じクラスだったことだ。

 よく分からない感情が全身を巡り、私の視線を龍二から逸らしてしまう。こんなことは、生まれて初めての経験。どうしていいのか、分からなかった。

「もぅ、そんなバカなこと言ってないで、自分の席に座ってくださぃ」
「わっかりました〜。って、僕の席はっと……」

 私は机に伏せ龍二の視線から逃げようとする。
 なぜ、逃げるのか。なぜ……だって私には魔性の力があり、男なんて道具程度の存在だったのに。

 分からない、全然、分からない。考え込んでいると、龍二らしき足音が聞こえてくる。一歩、また一歩と……。このまま私の席を通過して欲しい。そう願いを込めたのに。

「あれ……。キミはひょっとして、神楽耶さん、ですよね? その艶やかな黒い髪、このような美しい人は他にいはいませんから」
「ひ、人違いです。私は月姫神楽耶なる人ではございません」