私は廊下を走っていた。どこに行けばいいのかなんて分からない。それでも私はこの広い屋敷を走り回るしかなかった。

「どこよ、どこにいるのよ。佳奈さんと話をしなくちゃ。私は龍二と一緒にいたいの、だから、佳奈さんを説得して……」

 記憶が戻り、龍二が私を好きなのは、魔性の力ではないと知る。それならば、身分など忘れ、この大地で静かに彼と一緒にいたい。それが私の願いなのよ。
 それが叶うなら……姫という立場なんて、私はいつでも捨てられるんだからっ。

「そ、そうだっ。龍二に聞けば居場所が分かるかもしれない。スマホ、スマホは……。もぅ、部屋に置きっぱなしじゃないのっ」

 急がなくちゃ。別に、どこかに行っちゃうわけじゃないけと、早く会わないといけない気がするわ。

 焦る気持ちを押え私は部屋へと急ぐ。今、私の中には絶望などなく、希望の光が差し込んでいた。

「はぁ、はぁ。迷わずに戻れたわね。スマホは確かカバンの中に……。って、充電きれてるじゃないのっ。もぅ、充電器はどこにしまったのよ〜」

 自分のカバンをひっくり返し、私は床に散らばった中から充電器を探そうとする。だけど、焦ればあせるほど、いつもは簡単に見つかるモノが見つからない。

「どこよ〜、私の充電器はどこにあるのよ〜」
「ハニー、充電器ってこれじゃないかい?」
「ありがとうござ……。って、り、龍二!? いつここに来たのよっ」

 耳元から聞こえる声に振り向くと、優しい顔の龍二が目の前にいた。嬉しいサプライズで、私の鼓動は激しくなってしまう。

 龍二はいつからいたのよ。まさか、カバンをひっくり返したときからっ!? もぅ、あんなガサツなところ見られたくなかったのに。私のばかっ、もっと周りを見ればよかったわ。