「と、とにかく、宗教の勧誘か詐欺かは知りませんが、私に構わないでくださいっ」
「仕方ありませんね。では、これでどうでしょうか?」

 その女性は私の頭をいきなり鷲掴みにした。最初は何がなんだか分からず動揺してしまう。でも……頭の中に流れてきたのは……。

 月に存在する大きくて美しいお城。
 そこに存在するのは女性のみ。
 中はかなり広く、大浴場がいくつも完備されていた。

「何これは……。嘘よ、こんなのデタラメだわ」
「本来なら、自分が成すべきことを自然と思い出すはずなのですが。イレギュラーでも発生してしまったようですね」
「何よイレギュラーって。これはなんの冗談よ」
「やはり、あの夫婦ではダメでしたか。神楽耶様には、多少強引にでも、本来の使命を思い出してもらうしかありません」

 その女性は再び私の頭を掴み、私の中に眠る力を引き出したのよ。これまでの記憶と引き換えにね……。そして、魔性の力を使えるようになり、新しい土地で暮らすことになったんだわ。


 私はすべてを思い出した。失われた記憶も、自分の故郷も、本当の母親も……。

 これから私はどうすればいいの龍二……。こんな私でも、アナタは好きでいてくれるの? 私が何者でもとは言ってくれたけど、それが月の姫であっても、同じことが言えるのかしら。
 あの人……そうよ、あの人が元凶なのよ。
 確か名前は──。

「佳奈、確かに佳奈って名乗ってたわ。でも、ここ最近同じ名前で同じ姿の人を見かけた気が……。あっ、メイドの人だわ、なんで気が付かなかったのよ、私のばかっ。だって……担任の先生と同じ顔じゃないのっ」

 メイドと担任教師が同一人物。
 それにまったく気がつかなかった。私は慌てて部屋を出ると、彼女を探し始めたのだ。