──コンコン。
「神楽耶様、失礼します。わたくし、身の回りをお世話するよう言われた、メイドの佳奈と申します。どうか、お見知り置きを」

 凛とした態度で私の前に現れたメイド。見た目は私より年上で、恐らく二十代前半と予想していた。

 綺麗な人ね。まぁ、私ほどではありませんけれど。龍二は、このような女性たちを侍らせているのかしら。もぅ、私だけを見て欲しいのにっ。

「よろしくお願いしますわ。佳奈さん、とお呼びしてよろしいのかしら?」
「はい、お好きにお呼びいただいて、かまいません。それと、お風呂の準備が整いましたので、ご案内に参りました」
「あ、ありがとうございます」

 メイドのあとに続き、私はお風呂場へと向かった。長い廊下を歩くこと数分、ようやくお風呂場らしき入口が私の視界に入ってくる。

 お風呂場までこんなに歩くだなんて。家の中で散歩ができてしまうわ。それにしても、龍二は何者なのでしょうか。ううん、そんなことはどうでもいいの。だって、彼は私が何者でもいいと言ってくれたんだから。

 自然と私の口元には笑みが浮かぶ。龍二の言葉が脳内を駆け巡り、つい妄想をしてしまった。

「神楽耶様、ここが浴場にございます」
「ふぇっ!? も、もう着いたのね。思ったより近かったですわ」

 も、妄想はよくありませんわ。変な顔してたの見られてませんよね。あんな顔を見られたら……お嫁に行けなくなってしまいますから。

 まったく表情を変えないメイドを警戒しながら、私は浴場へと足を踏み入れる。ここで身も心もサッパリしようと心に決めたのだ。