結局、私はヘリコプターに自力で乗るハメになった。自業自得とはいえ、押しの弱い龍二を鋭く睨みながら……。

「さぁ、テイクオフだよ。ちゃ〜んと、シートベルトはしてねっ。もしくは、僕がしてあげようか?」
「シートベルトぐらい、自分でできるわよっ。龍二のばかっ」

 龍二につい八つ当たりしてしまう。
 お姫様抱っこという私の憧れ。
 もう少し強引にしてくれてもよかったのに。
 その想いが反転して、彼へ怒りをぶつけたのだ。

 私の中で怒りが湧き上がる中、ヘリコプターは地上から飛び立っていく。上昇を初めて数分で、街がミニチュアのように小さくなる。

 それと同時に……私の手に温もりが感じ始めた。

「り、龍二!? どうして私の手を握っているのです?」
「それは、僕が高所恐怖症だからだよっ。だから、絶対に離さないからねっ」

 違う、龍二は嘘をついている。だって彼の瞳はまったく怯えていないのだから。これは、私が高所恐怖症だと感じ取って、さりげなく手を握ってくれたのだ。

 だから私は……彼の優しさに甘えようとした。

「まったく、男なのにだらしがないわね。仕方ないわ、私の手をしっかり握ってるのよっ」
「さすがハニー、優しすぎて僕は涙が出るよ」
「もぅ、ばかっ」

 龍二から伝わる温もりが、私の震えを抑えてくれる。そう、彼は私の中から恐怖という魔物を追い出したのだ。

 それこそ、外の景色を安心して眺められるほど。こんなことは初めてで、私は心の底から龍二へ感謝していた。でも、それを口には出せなかった。

 だって、恥ずかしすぎて、また会いたいな逆のことを言ってしまうとおそれていたから……。それでも私の顔は、自然と笑みがこぼれていた。