私が龍二に連れて来られた場所は──。
 見渡す限りの平地……とはいかないが、野球グラウンドより少し広めの大きさ。周囲に目立った建物は見当たらなかった。

「龍二、本当にこの場所でいいの? だって、ここは……ただのグラウンドじゃないっ」
「美しい顔を膨らませないでおくれ、マイハニー。ほら、あれを見てご覧?」

 龍二が指さす方向に見えたのは……空に浮かぶ小さな点。それは次第に大きくなっていき、爆音が私の耳へと届き始める。

 その形がハッキリ見えるには時間がかからず、それが何か分かると、私は思わず声を出してしまった。

「あれって……。まさか、ヘリコプター!? 本物……よね。龍二、アナタはいったい……」
「もちろん、本物のヘリコプターさ。それと、僕が何者か興味あるかい? ハニーになら教えてあげても……」
「べ、別に聞きたくないですわよっ。龍二が何者だって……私は構いませんもの」

 一瞬ですけど、龍二の顔がニヤけた気がする。ううん、きっと気のせいよね。夕陽に照らされてそう見えただけよ。

 ヘリコプターはグラウンドの中央へと降り立つ。プロペラからは強風が吹き荒れ、私の長い髪と制服を(なび)かせていた。

「さぁ、これがハニーの願いを叶える乗り物さ。遠慮なんていらないよ。それとも、僕がお姫様抱っこで乗せようかい?」
「そんなこと……しなくて平気よっ。さっ、龍二、早く行きましょうか」

 お姫様抱っこ……なんで断っちゃうのよっ。私のばかっ。せっかくのチャンスだったのに……。いや、今からお願いすればきっと……。

 ダメよ、そんなこと恥ずかしすぎて、私にはできないわよ。もぅ、ホント、私って素直になれないんだからっ。