「マイハニー、気がついたかい?」
「ここは……。私は神社にいたはずなのに……」
「何を言ってるんだい、ハニー。うなされながら、ずっと眠ってたんだよ」

 私、思い出したわ、龍二の言う通りよ。確か記憶を探ろうとしたら、激しい頭痛に襲われて……倒れそうになったところを……。

 鮮明に蘇っていく当時の記憶。
 それが完全に修復されると、私の顔は一緒で真っ赤に染まってしまう。

 ──男の人に抱えられたのは、初めてかな……。

「り、龍二、あの……その、あ、ありがとう。私を保健室まで運んでくれて……」
「それくらい、お安い御用さ。それよりも、体調は大丈夫どうだい?」
「頭痛も収まったし、もう、大丈夫よ」

 優しい瞳よね。黙っていたらチャラ男には見えないのに。そう、黙っていたら……。あれ、でも確か龍二はあのとき……。

「──!? な、近い、顔が近いですってっ」

 激しくなる鼓動が、私から冷静さを奪っていく。
 ──ドクン、ドクン……。
 それは収まるどころか、時間とともに激しさを増してしまう。私は龍二の瞳を直視できなくなっていた。

 まったく、油断も隙もありませんわ。顔を近づけすぎなんですもの。

「おっと、僕としたことが。ハニーが心配だったんだ、怒っちゃったかな?」
「怒ってなんかないわよ、ばかっ」
「どう見ても怒ってるじゃない〜」
「むぅ、そういう意味じゃないのっ。悪いと思ってるなら、私を教室まで連れて行きなさいよっ」

 私の瞳が捉えたのは、微笑む龍二の優しい顔。安心感が私の心に浸透し、気がつけば彼が私の手を握り締めていた。
 温かくて力強くて……その居心地の良さに私の口元は、つい緩んでしまった。

「かしこましました、マイハニー。それでは、この私が教室までエスコートさせていただきますね」
「お願いね、その、手を離したら許さないんだからっ」

 なかなか素直になれない自分が少しイヤになる。でも、龍二はそんな私に優しい顔を向けてくれた。まるで、私の心まで見透かしているように……。