「なに」

何事もないというようにいつも通りを装う。

「なんかあった?とりあえず自販機行こうぜ。喉乾いた」

いつも通りの口調を心がけて階段に向かって歩き出す。優絵は「うん」と小さく頷いて後をついてくる。
いつもの踊るような軽やかな足音は聞こえない。ひどく、重い足どり。

(ついに、壊した、か)

今年のあれで伝わったのか、というかすかな驚きは、絶望に塗り替えられる。
優絵の反応は、良いものには見えない。

(今更震えてんなよ、俺)

微かに震える手をグッと握って、自嘲する。