「おはよう」

チェック柄のマフラーが首元を覆っていて、いもむしのようにモコモコしている。鬱陶しそうにリュックを背負いなおす。
同じ色の濃紺のブレザー、臙脂色のネクタイはいつも少しだけ不恰好な長さで、濃緑色のスカートからすらりとした足が出ている。
無駄のない体型に、早く走れるわけだと納得する。走るのが嫌いな俺には到底マネできない努力と練習を重ねた結果なのだろう。

「行こう、遅刻しちゃうよ」

その声と姿に、心が穏やかになると同時に「もっと」「もっと」と本能がざわめく。
衝動を誤魔化すように、膝に手をついて立ち上がる。
並ぶと優絵の身長は俺の肩くらいで、高く結んだポニーテールがすぐ近くで揺れている。

「あーあ、早くテスト終わんないかなー。部活ないと体がなまるー」

「部活なくても走り込みしてるやつが何を」

笑って言うと、優絵もふふっと笑顔になる。楽しそうな瞳が、糸のように細くなる。