「うん。ありがとう。助かったよ」

「もう写真はいいの?」

「多分……。チェックしてみないと分かんないけど。大丈夫だと思う」

 俺は、カメラ本体から撮れたばかりの画像を見ている。

彼女はそこに、近寄っては来なかった。

「だ、ダメだったら、また連絡するね」

「うん」

 何もかも、彼女の姿のままなのが悪いんだ。

これがハクだったら、文句も言えただろう。

「そっか。よかった。じゃあまたね」

 その『またね』に、本当の『次』がないことを、俺はよく知っている。

追いかけなきゃいけない。

追いかけて行きたいと思っているのに、どうしても体が動かない。

それはきっと、『動かなくてもいいこと』だからなんだと自分に言い聞かせる。

「早く……。写真を選ばないと。マジで間に合わないから……」

 部室に戻る。

狭い部屋に何人かがいて、いつものようにしゃべっている。

一台しかないパソコンは空いていて、俺は撮ったばかりの画像を保存することなく、そこを出た。

 そのまま帰ればいいのに、体育館は、いつものバス停とは違う、逆の正門の方なのに、つい足が向いてしまう。

カメラがあるから、これさえあれば、いつでも彼女に話しかけられると、そう思っていた。

だけど立ち寄った体育館は、もうすっかり運動部が占領していて、演劇部が体育館を使っていたのは、大会の前だけだったんだと思い知る。

結局、それまでの存在だったんだな。

彼女の言う通りだ。

 引き返すのも恥ずかしくて、そのままいつもと違う門から坂道を下る。

学校という同じところから出発しているのに、見える景色は全く違っていた。

正門となるこちら側は、山を下る坂道も緩やかで、視界を覆う原生林もまばらだ。

眼下に住宅街らしい街並みが広がっている。

ゆるやかな坂道を下ってゆく。

だけどここからは、いつものバス停、いつもの駅へは行けない。

遠回りだ。

最短距離を選ぶとしたら、もう一度学校へ戻って、裏の山門からやり直すのが、最適解なのは分かっている。

だけど……。

俺は顔を上げた。

目の前に広がる街並みはずいぶん違って見えても、本当は何にも違ってなんかいない。

結局それは、全部繋がっているんだから。

慣れない道を下りながら、俺はここからどうやって家に帰ろうかと、そのことばかり考えていた。