「そうだ。だが一向に進展がない」

 舞香の横顔は、真っ直ぐに前を見つめた。

「舞香に任せていてはダメだ。私にはもう時間がない。彼女には悪いが、しばらくこの体を借りることにした」

「そんなことをして、大丈夫なの?」

 ハクはニヤリと微笑む。

「さぁな。時間がかかれば、どうなるかは知らん。物の怪に取り憑かれた人間の末路など、正直私には興味はない。所詮、木々よりも短い命だ。舞香は己の一生を、自分の側にいてほしいと私に懇願した。ならば共にあろうと、約束したのだ。宝玉が見つからなければ、ここに来た意味はない」

「は? ちょっと待て。どういうことだ」

「お前が協力する気がないのなら、それでもいい。私の邪魔をするな。これからは舞香ではなく、自らで探しだす」

 校舎の陰から、荒木さんが現れた。

その姿に、彼女の視線は釘付けになる。

「これは仕方のないことだ。もう撮影はいいのか? いいのなら私は行くぞ」

「待って」

 立ち上がろうとした彼女の腕を、咄嗟に掴んでしまった。

「まだ何にも撮影していないじゃないか。おごらせるだけおごらせておいて、そのまま行くのか?」

「ならば早くすませろ」

 荒木さんは俺たちの目の前に立つ。

「いちゃついているところを申し訳ないのだが……」

「いちゃついてません」

 彼女はじっと彼を見つめたままだ。

「出来るだけ早く、舞香を解放してほしい。編集の終わった動画チェックは、こっちで終わらせた。細かいところを直して、審査会本部へ送らなくてはならない。その他にも色々とある。コイツはマネージャーとして、うちに必要だ」

「分かってますよ」

「宝玉を探しているのだ」

 舞香になったハクが言う。

荒木さんは彼女をじっと見下ろす。

「それがどうした。……。俺は、協力したはずだ。もうこれ以上は知らん」

 彼の視線は、舞香から俺に移る。

「さっさと撮影を済ませて、舞香を返せ。……。別に、お前から奪おうってワケじゃないんだから、いいだろ」

 だから、それは……。

顔が真っ赤になっているのは分かるけど、自分ではどうにもならない。

まったくこの生体機能はどうにかしてくれ。