「使う労力が違うのだ。取り憑くのと化けるのとでは。体の動きも重いし、それでは見聞きするくらいでやっとだ」

 飲み終わった紙パックを、ブンと放り投げる。

超人的な飛距離とコントロールで、校舎脇に設置されたゴミ箱に転がり込んだ。

「舞香の体を借りた方が、出来ることも多いし、何よりラクでいい」

 彼女がくるりと振り返る。

うれしそうに足をぶらつかせ、俺をのぞき込んだ。

「で、終わったらどうする?」

「終わったらじゃない、撮影まだだろ」

 ジュースとコンビニでのアイス。

その後のラーメンとハンバーガーまで約束しないと、言うことを聞かない。

それを条件に、大声で名前を呼ぶことと廊下を走ること、俺に抱きつくことをやめさせた。

それと……。

「足!」

「へ?」

「スカートなんだから、ちゃんと足を閉じる!」

 舞香はその裾を持ち上げた。

「不思議な着物だ。確かに以前に比べると動きやすいし便利だが、うっとうしいといえば邪魔だな」

 俺の足に視線を移す。

「以前は色や柄の違いくらいしか、着る物に違いはなかった」

 その手が俺の太股に置かれる。

ゆっくりとズボンの生地をなでた。

「こっちの着物と、どっちがいいのだろうな」

「さ、触るな!」

 その手をつまみ上げた。

「圭吾はどうして、そっちの着物を選んだ?」

「お触り禁止って言ったでしょ!」

「顔が赤いぞ、圭吾」

 無邪気な彼女の顔が、グッと近づく。

その指先が頬に触れた。

「どうした? 熱でもあるのか」

 そのまま両手で俺の顔を挟む。

「宝玉さえあれば、すぐに治してやれるんだが……」

 じっと見つめてくる、その目が気になるのか、少し開いた唇が気になるのか、そのまま俺は動けない。

「だから、それを探しに来たんだろ?」

 頬に触れていた手を引き離す。

そういえば彼女の手をちゃんと握るのは、初めてかもしれない。