荒木さんがやって来た。
舞香の頭上をチラリと見てから、普通に話し始める。
彼女は頭に本でも載せて話しているような姿勢で、バランスを取りながら話している。
すぐに希先輩がやってきて、荒木さんの腕に自分の腕を絡めた。
希先輩の半袖からむき出しの腕が、荒木さんの素肌に絡まる。
その彼の腕を希先輩がグイと引っぱると、荒木さんは困ったように彼女を見下ろした。
「ね、今日は一緒に帰ってね」
「そんな約束はしてない」
「好きにしろって言ったのは、自分でしょ?」
「……好きにしろ」
その荒木さんの腕が、希先輩の胸の間に挟まっている。
「え? 付き合ってんの?」
俺の言葉は、三人の視線を一度に集めた。
荒木さんはため息をつく。
「やっぱりそんな風に見えるのか?」
「違うんですか?」
「違わないよ。合ってるよ」
希先輩は、その腕をもう一度荒木さんの腕に絡める。
「私たち、付き合いだしたから。そうだよね?」
「……。好きにしろ」
荒木さんは希先輩に構うことなく、舞香との事務連絡を交わした。
「じゃあ。邪魔したな、圭吾」
「別に邪魔なんかされてませんよ」
「お前らも付き合うんじゃなかったのか」
「……。ないです」
「そうなのか?」
荒木さんは今度は、舞香に視線を向ける。
「ないですね」
「ね、もう行こう。用は済んだでしょ」
希先輩は、宙を舞う虫を追い払うような仕草を見せた。
「もう! うるさいし邪魔! あんたは関係ないでしょ?」
怒ったまま、俺を振り返る。
「じゃ、お邪魔しましたぁ!」
互いに腕を絡ませたまま、二人の姿は消えてゆく。
夕陽というのは、あっという間に沈んでゆくもので、完全下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
「帰らなきゃ」
舞香は暗くなり始めた空を見上げる。
その横顔は、一点を見つめたまま動かない。
「そこにハクがいるの?」
彼女が振り返った。
微笑んだスカートの裾は、膝上近くまで跳ね上がる。
「さぁね。ハクって、誰?」
彼女は弾む足取りのまま、校舎の角へ消えてしまった。
「ハク……。ハク?」
こっそり呼んでみても、返事はない。
すっかり暗くなった池の面は、映していた校舎の灯りを、そっと消した。
舞香の頭上をチラリと見てから、普通に話し始める。
彼女は頭に本でも載せて話しているような姿勢で、バランスを取りながら話している。
すぐに希先輩がやってきて、荒木さんの腕に自分の腕を絡めた。
希先輩の半袖からむき出しの腕が、荒木さんの素肌に絡まる。
その彼の腕を希先輩がグイと引っぱると、荒木さんは困ったように彼女を見下ろした。
「ね、今日は一緒に帰ってね」
「そんな約束はしてない」
「好きにしろって言ったのは、自分でしょ?」
「……好きにしろ」
その荒木さんの腕が、希先輩の胸の間に挟まっている。
「え? 付き合ってんの?」
俺の言葉は、三人の視線を一度に集めた。
荒木さんはため息をつく。
「やっぱりそんな風に見えるのか?」
「違うんですか?」
「違わないよ。合ってるよ」
希先輩は、その腕をもう一度荒木さんの腕に絡める。
「私たち、付き合いだしたから。そうだよね?」
「……。好きにしろ」
荒木さんは希先輩に構うことなく、舞香との事務連絡を交わした。
「じゃあ。邪魔したな、圭吾」
「別に邪魔なんかされてませんよ」
「お前らも付き合うんじゃなかったのか」
「……。ないです」
「そうなのか?」
荒木さんは今度は、舞香に視線を向ける。
「ないですね」
「ね、もう行こう。用は済んだでしょ」
希先輩は、宙を舞う虫を追い払うような仕草を見せた。
「もう! うるさいし邪魔! あんたは関係ないでしょ?」
怒ったまま、俺を振り返る。
「じゃ、お邪魔しましたぁ!」
互いに腕を絡ませたまま、二人の姿は消えてゆく。
夕陽というのは、あっという間に沈んでゆくもので、完全下校時間を知らせるチャイムが鳴った。
「帰らなきゃ」
舞香は暗くなり始めた空を見上げる。
その横顔は、一点を見つめたまま動かない。
「そこにハクがいるの?」
彼女が振り返った。
微笑んだスカートの裾は、膝上近くまで跳ね上がる。
「さぁね。ハクって、誰?」
彼女は弾む足取りのまま、校舎の角へ消えてしまった。
「ハク……。ハク?」
こっそり呼んでみても、返事はない。
すっかり暗くなった池の面は、映していた校舎の灯りを、そっと消した。