「いまも後悔が残っていて、その妹にそっくりなハクを見ると、どうしても我慢できなくなるんだって」

「……。俺さ、前に荒木さんが龍のハクを捕まえて、外に放り投げてるの見ちゃった」

「そう! ツンデレっていうの? 人間の女の子の時と、龍の時との差が激しいの……」

 彼女の目に涙が浮かんだ。

「私のハクちゃんなのに……」

「えぇ? わ、私のって、宝玉見つけて天に返すんでしょ?」

 彼女の顔は、パッと俺を見上げた。

たっぷりと涙を含んだ目が震えている。

「どうしよう……。私、ハクと離れたくない。離れたくないの。本当は宝玉なんて、見つかってほしくない!」

「だ、だってそれじゃあ……」

「ハクとずっと一緒にいたい。私が死ぬまででいいから、天になんて帰らないでいい。そばにいてほしいの!」

 ドンッと俺の胸にすがりつく。

いや、ここ人通りの多い繁華街なんですけど? 

バシッと咄嗟に両手を挙げ、俺はバンザイ維持状態に突入!

「ちょ、ちょっと待って……」

「私、別れたくない!」

 いやいやいやいやいや! 

周囲の視線が痛い。

俺は彼女の肩を引き離した。

「どういうこと? もしかして、ハクの邪魔してんの?」

「じゃ……ま、は、してない。ただ、一緒にいたいだけ」

「好きなんだ」

 彼女の目に涙が浮かぶ。

「ペットって言ったら、ハクは怒るかもしれないけど、私にとってはもう、大切な家族みたいな存在なの。ずっと一緒にいたい。ハクはそうじゃないかもしれないけど、私は……」

 鼻水をズズッとすする。

強く固い決意に満ちた目で、彼女は俺を見上げた。

「ハクを天には帰さない。宝玉は見つけない。ハクの寿命が長いのなら、私の一生なんて一瞬のはずでしょ? だったら私が死ぬまで、絶対一緒にいてもらうから!」

 彼女の体が離れる。

ふらふらと歩き出した。

人通りの中でくるりと振り返ると、ビシッと俺を指さす。

「絶対に別れないから!」

「あぁ……」

 頭が痛い。

だからココ、人通りの多い繁華街なんですけど……。

街を行き交う人々の視線が辛い。

色んな意味で。

盛大なため息をつく。

やっぱり関わるんじゃなかった。