撤収作業が終わって、公会堂の外に出る。辺りの日はすっかり落ちていた。

演劇部員の最後のミーティングが終わると、いつの間にか用意されていた花束が、演劇部員全員に手渡される。

感動の一幕ってやつだ。

みんなは拍手と笑顔でその輪の中に入っていたけど、俺とハクは手をつないだまま、離れたところでその様子を見ていた。

ハクはまばたきもしないで、じっとその様子を見ている。

その中心にはやっぱり荒木さんがいて、やがてそれも解散となった。

「お待たせ」

 荒木さんがこちらに向かって来る。

何かと思ったら、いきなりハクを抱き上げた。

「いい子にしてたか」

 笑った! 

ずっと能面のように固かったハクの顔が、うれしそうに笑った。

荒木さんもハクのその表情に、目を細める。

抱き上げたハクの頬に自分の頬を寄せた。

「圭吾に意地悪されなかったか」

 ハクは荒木さんの頭にぎゅっと抱きつくと、その髪に顔を埋める。

声を出さず笑う彼女の姿に、俺は正直、面食らっている。

「もーね。荒木くん、ハクにベタベタのあまあま」

 荒木さんに抱かれたまま、ハクは自分で乱したその人の髪を、ちょろちょろと小さな手で直し始めた。

「はぁー。ハクはいい子だね。ありがとう。このまま抱っこしてる?」

 なぁ、兄妹だってのは、内緒にするんじゃなかったのか? 

いいのか、そんなんで? 

コレ絶対バレてるだろ。

他の部員たちはすでに姿を消していて、残っているのは俺と荒木さんと舞香、希先輩だけ。

「俺には妹がいたんだ」

 ふいに荒木さんは言った。

夕焼けの落ちてゆく日の光りが、その二人を包む。

「歳の離れた妹で、ちょうどこれくらいの年頃の時に病気で亡くして……。そっくりなんだ。だからどうしても、ほっとけない」

 ハクを見上げる目は、ここではないどこかを見ていた。

ハクもその彼の腕に高く抱かれ、じっと見下ろしている。

「にしたって、デレ過ぎない?」

 希先輩にそう言われ、ハクは再びぎゅっとしがみつく。

荒木さんの首にしがみついたまま、希先輩を見下ろした。

「黙れ。お前になど用はない」

「ちょっと! 本当の姿に戻りなさいよ。デレるのは妹キャラの時だけで、本当の姿にはこの人、全然興味ないんだから!」

「ハクちゃ~ん。そろそろ一緒におうち帰ろぉ」

 そう言った舞香の声は、泣きそうだ。

その涙の訴えに、ハクは荒木さんの腕の中で、ポンッと本当の姿であるチビ龍に戻る。