俺がマウスを動かそうとしても、イケメンの圧がそれを許さない。

整い過ぎた顔が再び耳元でささやく。

「『星空』フォルダーだなんて、ロマンチックでかわいい」

「ち、違うんです……」

「心配しないで。ちゃんと協力するから。約束」

 イケメンのイケボなウィスパーボイスとウインクは、男にすらその効力を発揮するということを、俺は生まれて初めて知った。

「だ、だからそれは誤解で……」

 荒木さんのマウスを操作する手は止まらない。

パソコン画面には、PCの空き容量も表示されてしまっている。

彼はそれを確認すると、ニッと微笑んだ。

次の瞬間、彼は大きく両腕を振り上げたかと思うと、膝を折り額を床にこすりつけた。

「撮影会のモデルは快く引き受けるし、なんなら写真部の部員が好きな時に声をかけてくれたっていい。その時間でも撮影に付き合おう! だから、演劇部活動紹介と上演映像の、撮影と編集を教えてください! お願いします!」

「演劇部なのに? 舞台じゃなくてなんで動画配信にこだわるんですか?」

 俺がそう言った瞬間、希先輩ムッと眉を寄せた。

俺は「おかしくない?」っていう次の言葉を飲み込む。

「……。舞台映像をネットで流すのは、今や常識だよ」

来ていた女の子たちも口を開いた。

「自分たちでやれたらいいんだけど、パソコン使える人が他にいなくて……」

「貸していただけるだけでいいんです。それと、使い方を教えていただければ。後は自分たちでなんとかするので……」

 『星空』フォルダーの舞香が言う。

「高校演劇を本格的にやっている学校って、実はあんまり多くはなくて。交流の難しいなか、それぞれが動画を撮影し、互いに配信しあって交流しているの。より多くの人にも見てもらえるし。ネットで動画をあげることが出来れば、演出の助言や演技指導のアドバイスも受けやすくなるから……」

 イケメン荒木部長の手が、俺の肩に乗った。

「撮影モデル、喜んでさせてもらうよ。写真部の皆が、好きな時に好きな演劇部員を指名できるってことで、お願い出来ないかな」

 その言葉に、希先輩を始めとする部員全員が、ゴクリとツバを飲み込んだ。

顔出し人物画像の撮影が難しい昨今、その申し出は非常にありがたいけど……。