「悪いが邪魔するぞ」

 荒木さんだ。

全員の体がビクリと震える。

「なんだ、まだお祓いを済ませてないのか。さっさと神社でもどこでも行って、終わらせろ」

 ギロリとハクを見下ろす。

本当に、このヒトも知っているんだ。

だけど白銀の龍は、もう決して姿を見せることはない。

それは確かなことなんだろう。

「お祓いとはなんだ! 私はそんなことでは姿は消さぬ!」

「お前のおかげで、うちの優秀なマネージャーが部活に集中出来ない。さっさと消えてくれ。そのために俺は協力したんだが?」

 ハクは負けじとにらみつけた。

だがその何倍も荒木さんの方が強い。

「つまみ出すぞ」

 ハクに伸びた荒木さんの手を、舞香は遮った。

「ちょっと待ってください。ハクをいじめないで! 演劇部のことはちゃんとやりますから、部長こそ邪魔しないでください」

「当然だ。それで、公会堂での練習予定日なんだが……」

 この状態のまま、めちゃくちゃ普通に事務連絡を始めてしまった。

ハクはその隣でガチガチとちっこい牙を打ち鳴らし、荒木さんに噛みつく素振りを見せてはいる。

だけどそもそも、届きもしないし本気で噛みつこうとも思ってない。

「……。ねぇ、それでいいの?」

「何がだ!」

「いや……」

 妹っていうことは、ハクは本当に女の子なんだな。

「ハクは荒木さんのこと、嫌い?」

 そう言うとハクは、じっと俺を見上げた。

「コイツは本当に私をつまみあげた上に、放り投げたんだぞ!」

「俺も一回は触ってみたいんだよね」

 手を伸ばす。

やっぱりガブリと噛みつかれた。

「痛いって」

「私に触れていいのは、舞香だけだ」

「ならばその舞香に、俺も触れてやろう」

 荒木さんの拳が彼女に伸びた。

こめかみの辺りをそれで挟み込むと、グリグリと動かす。

「ははは。どうだ。お前にはこんなことは出来まい」

「えぇ? 別にそんな……」

 うらやましいに決まってるじゃないか。くそっ。

「痛い。地味に痛いです部長」

「舞香に何をする!」

 チビ龍はその手に、ガブリと襲いかかる。

だがそれは噛みつかれる前に、パッとよけられた。

「はは、相変わらずとろいな」

 笑った! 

荒木さんは、俺が今まで見たことのないような顔で笑った。