「荒木さんって、やっぱタダ者じゃねーよな。これだけの人数に動員かけて協力が得られるって、やっぱ顔だけの人じゃないんだよ。天は何とかっていうけど、圭吾もそこは認めた方がいいと思うよ」

 そんなことは頭では分かっている。

分かってはいるけど、どうにもならないのがヒトってもんじゃないのか?

「舞香を探してくる」

 荒木さんに見つかる前に、彼女を探して、とにかく情報を仕入れないと。

あの人と二人きりになって話しをしたとして、何の事前対策もなしでは、勝てる気がしない。

そう思っているのに、どうして彼女は荒木さんと一緒にいるんだろう。

体育館二階席の最前列、すぐ真下に舞台を見下ろせる位置に、並んで立っている。

そしてその隣には、もれることなく希先輩もついていた。

「ね、荒木くん。圭吾が来たよ」

「お、よかったよかった」

 当然のように、肝心の女の子二人は俺に手を振る。

気楽なもんだ。

荒木さんは近寄ってきた俺を見下ろした。

「いや、俺は舞香に用があって来たんですけど……」

「え? 舞香? やっぱ舞香をモデルにすんの? じゃあ……」

「違います!」

「じゃあ何の用だよ」

「そうよ。素直に舞香ちゃんにモデル頼みなさいよ」

 希先輩の冷やかしに、彼女は何のためらいもなく、手にしていた台本を客席に置いた。

「いいですよ。撮影行きますか?」

 だから、撮影じゃ……。

「あ、荒木さんにモデルをお願いしたいです!」

 自分でも、何を言ってるのか意味が分からない。

ただ俺の顔が真っ赤になっていることだけは分かる。

「……。え、俺? 本当に俺でいいの?」

「いいんです!」

 本当はよくはないけど、今さら引き下がれない。

「なんか逆に申し訳なくなってきたんだけど……」

「お時間は取らせませんので、手短にお願いします!」

「あーうん。じゃあちょっと行ってくるわ」

 そんなこんなで、二人で体育館を抜け出す。

体はもの凄くフワフワしているのに、どうして気分はこんなに沈むのか。

「なぁ、別に無理しなくていいんだぞ」

 後ろからついてきている、荒木さんのその声だけで、顔を見なくても表情は想像出来る。

「こっそり舞香と交代するか?」

「他に誰のモデルやったんですか。写真部の女子は全員荒木さんとか?」

「いや。結局、何だかんだで、他の人とか別の写真と被るからとかで、全部潰れた」

「え、希先輩も?」

 思わず振り返った。

階段の上から、その人を見下ろす。

「希は俺を指名しなかったよ」

「でも、他に希望者はいたでしょ」

「いたけど、被りすぎてみんな『やっぱいいです』ってなった。同じ被写体ばっかになるのは、みんなイヤみたいだな。個別では受けてないよ」

「あぁ、そういうことね」

 もうこの人とは、一生分かり合える気がしない。