「凄いよなー。凄い人って、なんであんなに凄いんだろうなー」
写真部部室の窓から、山本と二人で外を眺めている。
今日は体育館に演劇部の割り当てがないから、外練習の日だ。
すっかり演劇部専属カメラマンと成り果てたみゆきが、無駄にシャッターを切りまくっている。
「別に……。ちょっと派手な活動してるから、面白がられてるだけだろ」
くだらない。
他人のやってることになんて、構ってられるか。
そんな暇があったら、いい写真を撮る努力をしてる方が、ずっといい。
カメラを手に取ると、外へ出た。
演劇部員なんかと、顔も合わせたくない。
普段は近寄りもしない、校舎裏へ回った。
色あせた壁を懸命に這う蟻を見つけて、レンズを絞る。
シャッターを切ろうとして、手を止めた。
「そんなに動き回ってたら、撮りにくいだろ、お前……」
さっきまで見ていた光景が、頭にちらつく。
演劇部員の周りをちょろちょろしていたみゆきと、自分のどこが違うんだろう。
撮りにくいとか撮りやすいとか、そんなことじゃなくて、本当は……。
壁に張り付いていた蟻が、ポロリと地面に落ちた。
そのまま何事もなかったかのように、土粒の間を歩き出す。
そのちょろちょろした動きを追いかけ、レンズを向けた。
地面に体を貼り付け、彼の歩いてゆく先を追いかけて……と、その画面に靴が入り込んだ。
小さな蟻と大きな靴先。
悪くない。
俺はそのままシャッターを押した。
思わぬ収穫に、一息つく。
「……。お前、何やってんの」
荒木さんだ。
「何って、撮影ですよ?」
「地面に張り付いて人の靴撮ってるのが?」
「先輩には分かりませんよ」
顔を上げ、背の高いその人を見上げ……。
「……。あの……、ソレ、誰ですか?」
荒木さんは、幼い女の子と手をつないで立っていた。
カッチリとした濃紺の長袖の上着を着て、真っ直ぐな肩までの黒髪を伸ばしている。
抜けるような肌の白さは、日本人形そのまんまだ。
「お前は俺のことも忘れてしまったのか……」
「違いますよ!」
4、5歳くらいの女の子だ。
能面のような顔には、なんの表情も浮かばない。
「あの……。だから、この子は……」
荒木さんは彼女を見下ろす。
その女の子も、無言で彼を見上げた。
「……。俺の妹だ」
その言葉に、幼女は黙ってうなずいた。
絶対にウソだ! だってその子は……。
「お兄ちゃんが大好きな、困った奴でな。学校までついてきちゃったから、これから家まで送っていくんだ。そうだよな?」
荒木さんは、また彼女を見下ろす。
しばらくの間をおいてから、幼女もうなずいた。
「ねぇ、ちょっと待ってくださいよ……」
「待てない。そうだ、お前まだ、モデルを誰にも頼んでないだろう。仕方ないから俺がなってやってもいいぞ。時間と都合を考えておけ」
そう言って、幼女の手を引く。
二人はそのまま、校門の方へ向かって行ってしまった。
真夏の炎天下に濃紺の冬服ということだけが、彼女の違和感の原因か?
俺は遠くなって行く二人の後ろ姿に、ぐるぐると回らない頭を回す。
彼女の被る帽子と同じ色の、濃紺のリボンが揺れた。
「そうだ。あの子は……」
思い出した。
最初に俺が見た、空から降ってきた女の子だ。
なんで荒木さんと?
だとしたら、正体はチビ龍のハクじゃないのか?
もしかして誘拐とか?
売られる?
荒木さんに正体バレた?
ネットに晒される?
舞香と希先輩に報告しないと!
写真部部室の窓から、山本と二人で外を眺めている。
今日は体育館に演劇部の割り当てがないから、外練習の日だ。
すっかり演劇部専属カメラマンと成り果てたみゆきが、無駄にシャッターを切りまくっている。
「別に……。ちょっと派手な活動してるから、面白がられてるだけだろ」
くだらない。
他人のやってることになんて、構ってられるか。
そんな暇があったら、いい写真を撮る努力をしてる方が、ずっといい。
カメラを手に取ると、外へ出た。
演劇部員なんかと、顔も合わせたくない。
普段は近寄りもしない、校舎裏へ回った。
色あせた壁を懸命に這う蟻を見つけて、レンズを絞る。
シャッターを切ろうとして、手を止めた。
「そんなに動き回ってたら、撮りにくいだろ、お前……」
さっきまで見ていた光景が、頭にちらつく。
演劇部員の周りをちょろちょろしていたみゆきと、自分のどこが違うんだろう。
撮りにくいとか撮りやすいとか、そんなことじゃなくて、本当は……。
壁に張り付いていた蟻が、ポロリと地面に落ちた。
そのまま何事もなかったかのように、土粒の間を歩き出す。
そのちょろちょろした動きを追いかけ、レンズを向けた。
地面に体を貼り付け、彼の歩いてゆく先を追いかけて……と、その画面に靴が入り込んだ。
小さな蟻と大きな靴先。
悪くない。
俺はそのままシャッターを押した。
思わぬ収穫に、一息つく。
「……。お前、何やってんの」
荒木さんだ。
「何って、撮影ですよ?」
「地面に張り付いて人の靴撮ってるのが?」
「先輩には分かりませんよ」
顔を上げ、背の高いその人を見上げ……。
「……。あの……、ソレ、誰ですか?」
荒木さんは、幼い女の子と手をつないで立っていた。
カッチリとした濃紺の長袖の上着を着て、真っ直ぐな肩までの黒髪を伸ばしている。
抜けるような肌の白さは、日本人形そのまんまだ。
「お前は俺のことも忘れてしまったのか……」
「違いますよ!」
4、5歳くらいの女の子だ。
能面のような顔には、なんの表情も浮かばない。
「あの……。だから、この子は……」
荒木さんは彼女を見下ろす。
その女の子も、無言で彼を見上げた。
「……。俺の妹だ」
その言葉に、幼女は黙ってうなずいた。
絶対にウソだ! だってその子は……。
「お兄ちゃんが大好きな、困った奴でな。学校までついてきちゃったから、これから家まで送っていくんだ。そうだよな?」
荒木さんは、また彼女を見下ろす。
しばらくの間をおいてから、幼女もうなずいた。
「ねぇ、ちょっと待ってくださいよ……」
「待てない。そうだ、お前まだ、モデルを誰にも頼んでないだろう。仕方ないから俺がなってやってもいいぞ。時間と都合を考えておけ」
そう言って、幼女の手を引く。
二人はそのまま、校門の方へ向かって行ってしまった。
真夏の炎天下に濃紺の冬服ということだけが、彼女の違和感の原因か?
俺は遠くなって行く二人の後ろ姿に、ぐるぐると回らない頭を回す。
彼女の被る帽子と同じ色の、濃紺のリボンが揺れた。
「そうだ。あの子は……」
思い出した。
最初に俺が見た、空から降ってきた女の子だ。
なんで荒木さんと?
だとしたら、正体はチビ龍のハクじゃないのか?
もしかして誘拐とか?
売られる?
荒木さんに正体バレた?
ネットに晒される?
舞香と希先輩に報告しないと!