「いやー、そういうあっちは、どうなってるんですかねぇ~」

 山本は本当に遠慮がない。

「知らね」

 やっぱりこんなところになんて、来るんじゃなかった。

体育館を出る。

厚く曇った空から降り注ぐ雨には、止むつもりは一切なくて、体育館を出たところで行く当てもなかった。

俺自身が何をどう考えているかとか、そんなことは他人にとって、どうでもいいことだ。

もちろん俺がどう思っていようと、それはそれで自由なワケなんだし? 

何も言わない代わりに何も言われたくないと思うのは、当たり前なんじゃないかな。

だから何も言わないし、言われない。

だからきっと、そのおかげで全てが上手く回っている。

 湿っぽい廊下をうろうろして、机とか消火栓とかを、よく分かっていないままカメラに収める。

資料室前へ向かう廊下の前までやって来て、俺はガラスケースに飾られたトロフィーを遠くに眺めた。

もはや誰も見ていない、誰も覚えてさえいない古い記憶の残骸が並べられている。

もう終わった。

俺には関係のなくなったことだ。

することもないし、こういう時にパソコンの中に埋もれた画像の整理でもしよう。

 部室へ戻り、扉を開ける。

誰もいないと思っていたそこに、舞香が来ていた。

「あ、ゴメン……」

「いや、借りてるのこっちの方だし……」

 席を譲ろうとする彼女に、俺はそのままでいいと告げる。

そのまま作業を再開した彼女の横顔を見つめている。

「編集、出来るようになった?」

「うん。今、色々やってみてるとこ」

 文字の入れ方とか文字種の変え方とか、2画面3画面にするやり方とか、色々と聞かれて、それの聞かれたことだけを答える。

マウスを動かしアイコンをクリックして、彼女の作りたい動画が作りたいように編集されていく。

ふと気がつけば、机の上に真っ白なチビ龍がとぐろを巻いて眠っていた。